俺はタクランケ!X

ハロー、ハロー聞こえますか?
こちら太陽系第三惑星地球・・・。
あなたの世界とちょっとよく似たこっちの世界。
そっちがこっちで、こっちがそっちのパラレルワールド。
平行と交錯、現実と虚構。
ここは、それらの混沌から滴り落ちた、雨粒のようなブログ。
そちらの地球のお天気はいかがですか?

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2015.11.30 Monday

あしたのサディ2

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     あの定演から気がつけば一週間以上が経った。なんだか、凄く昔のことのような気もするし、つい昨日のことだったような気もする、不思議な感じだ。

     今回も、キレネン子さんには非常に助けてもらった。話は三週間ほど前にさかのぼる・・・。



     卒試も終わり、ほっと一息ついた頃。私は風呂に入っていた。私は風呂で鼻歌を歌ってしまう癖がある。キレネン子さんに言わせれば「鼻歌なんてレベルではない音量」らしい。いつも「うるさい!」と言われてしまうのだが、歌ってしまう。この日も、私は歌いながら上機嫌で風呂からあがった。すると、キレネン子さんが「ねえ」と言ってきた。私は(またうるさいって言われる)と身構えた。すると、キレネン子さんの口から飛び出て来た台詞は予想外のものであった。

    「衰えた?」

     キレネン子さんは耳が良い。彼女の歯に衣着せぬと言うか、忌憚の無い意見には、私は常に全幅の信頼を置いていた。しかし、この日の一言は非常にショックであった。「お、衰えたって・・・歌が?」「うん、なんか下手になった?」。

     ゴロマキ権藤に衰えを指摘される矢吹丈の如く・・・



    うろたえた。



    「お、衰え・・・。」







     私は次の日、悔しくなって実際に自分の歌声を録音してみた。すると、実際に自分でもびっくりするくらい衰えていたのだ。ちょっと音程は悪く、声もこもっていた。「キレネン子さんの言っていたことは本当だった。」。私は定演までの毎日、こっそり自主練して、持ち直せるところまで持ち直そうと決意した。

     思い返せば、6月の記念混声の定演で合唱活動に区切りを付けて以来、殆ど歌ってこなかった。これまで、卒試がひと区切りつくまでの間、歌うことができなかったのだ。成績が悪いなりに・・・いや、悪いからこそ、勉強勉強に追われて、歌っている場合ではなかったのだ。だから、まぁ、衰えていたとしても、それは当たり前のことなのかもしれなかった。

     だからこそ、卒試が終わってから、定演本番までの一週間が私にとって、勝負であった。



     地下室の一角で、楽譜をもって、こそ練。その作業はリハビリに通じるものがあったと思う。かたくなって動かなくなってしまった部分を歌うことでじりじりとほぐし、音域を広げていく。息の流れ、音程、言葉運び、課題は山積みだった。

     一回歌うごとに録音。iPhoneになってから録音が非常に簡単にできるようになったよね。録音したら、それを聴いて、また歌っての繰り返し。もちろん、その日の一番(から三番目くらい)の出来の録音を家に帰ったらキレネン子さんに聞かせて感想をもらった。眠っているところを無理やり起して録音を聴いてもらったこともあった。

     「音が届いてなくて、大声で誤魔化そうとしてる感じ」「高声が割れているよ」「苦しそうで、維持できてない」「今度は届いてるけど、声が鼻に入っちゃった」「フレーズ感が・・・これは歌い回しが雑!」などといった、合唱人顔負けの的確な愛の鞭。こそ練は、指摘された穴をひとつひとつ埋めていく作業となった。

     それでも、良い部分や良くなっている部分があれば「ここはいいね」と褒めてくれた。素直に聴いた時の率直な感想から、自分ではよくわからない細かい音程のことまで、色々とアドバイスをくれた。「ここはこういう所を意識して歌ってみたんだけど、どうかなあ?」と細かい質問にも気持ちを汲み取りながらスパッと答えてくれた。そして、不安と焦りで満ちた心を「昨日よりは良くなっているから、本番にはきっと間に合うよ」とマッサージをしながら励ましてくれた。私もキレネン子さんがそう言っているから!と信じて、限られた時間のなかで出来る限りのことをしようと努めた。

     ・・・そして、結果はどうなったかというと、こうなった



     成功した部分もあった一方で、正直言うと失敗してしまった部分もあったけれど、いまの自分が出来るベストのパフォーマンスをすることは出来たのではないかと思う。演奏会が終わって、真っ先にキレネン子さんのところへ感想を貰いにいった。すると「よかったよ!」と一言・・・正直、ほっとした。よかった。



     定演では、キレネン子さんからお酒とメッセージカードをもらった。

     メッセージカードには「6年間、本当にお疲れ様!」と書いてあった。そこには、歌っている私の写真が数枚同封されていた。いままで、そして今回の定演を、本当に音楽的にも精神的にも支えてくれたキレネン子さんには感謝の気持ちでいっぱいだ。キレネン子さんの支えがなかったら、あの日、あそこまで歌いきれてなかったと思う。



     ちなみに、もらったお酒はボジョレーヌーボー。生まれて初めて飲んだ。私はこたつに入りながら、定演の録音を聴きつつ、グラスにボジョレーを注ぎ、「ありがとう」の気持ちを込めて二日かけて空けた。


     キレネン子さん、本当にありがとう!


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