あらびき歯科医の「ナスのような気持ち」
やらなければいけないことが沢山ある。
沢山あると・・・逆に動きがとまる。ついついずっとコーヒーを飲んでしまう。
「ああ〜、やるべきことが沢山あるのに、コーヒーを飲んでしまう〜」
私が時計を見ながらコーヒーを啜っていると、隣に座っていた磯兵衛さんから檄が飛んだ。
「早よやれ」
ということで、今日もよく働いた。
日中は診療、夜は技工室に缶詰。この忙しさ、働きっぷりを、野菜に例えると・・・。
ナスである。
この日、私はナスのように蝋義歯(蝋で出来た本番の入れ歯になる前の仮の入れ歯)の歯肉形成(蝋の部分の形を整える作業、これがまた骨が折れるんだ!)に勤しんでいた!!
時が経つのも忘れて、一生懸命、エバンス(と呼ばれる写真にある金具)で蝋をこする。
こすっては、修正し、こすっては、修正し・・・。
お願いだよ、蝋義歯さん、理想の形になってくれ・・・。
お願いしナス!
こ、ここの!頑固な形が気になるから!
ごしごし。
ここの辺縁が気に、なるから・・・もう!
ごしごし。
もう!ああ!もぅあぁ〜あぁ!
ああああ!
あ゛ぁ゛ー!
あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ー!
眠た〜い!!
こすってもこすっても、我が蝋義歯、綺麗にならざり。じっと時計をみる。
眠たい目をこすりながら、蝋義歯をこする私は、まさしくこのナスのような心境であった。
なんとか蝋義歯を綺麗に仕上げたとき、もう終電の時間が迫っていた。帰り道、冷たい雨は次第に重さを増して、雪になっていた。私は「雪か・・・」と独り言ちた。雨は夜更けを過ぎる前に雪へと変わった。
道理で寒いわけだ。
それでは、ばいちゃ☆