俺はタクランケ!X

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2019.03.19 Tuesday

国を滅ぼした医者の話

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     風呂に入りながら防水カバーをつけた携帯でドキュメンタリー動画を見る。それが近頃の私の習慣になってきおり、その日一日の最後の癒しとなっている。

     

     この間、こんな番組を見た。

    「Hitler the Junkie(薬物に溺れたヒトラーの秘密)」。

     

     

     

     これは、独裁者アドルフ・ヒトラーの主治医テオドール・モレルにスポットを当てたドキュメンタリーであった。

    テオドール・モレル(1886-1948)

     

     ドキュメンタリーでは、ヒトラーの体調と当時のドイツの戦局、そしてその時どのような処置をモレルが施したのかというのが時系列にそって綺麗にまとめられており、とても面白かった。

     

     私が興味深いと思ったのは、モレルが現代の医学では考えられないほどの相当なヤブ医者だったにもかかわらず、ヒトラーの絶対的な信頼を買っていたということだ。

     要するに腕のない医者が国を滅ぼした話ともとれるわけで、患者と医者の信頼関係をラポールと言うのだが、その絶対的なラポールは医者の能力に裏付けされていなければ患者(ここではヒトラー)を死に至らしめるという恐ろしい話だと思った。

     

     モレルとヒトラーの出会いは1936年。

     この頃のヒトラーは、ストレスにより胃を悪くしていた。さらに、偏った菜食主義で好物の豆ばかり食べていたらしく、歯が悪かったため豆はすりつぶしていたいたという。おそらく重度の歯周病だったため、口も随分臭かったとされる。腹にガスがたまっていて、調べてみると絶え間ない放屁に苦しんでいたらしい。

     ヒトラーの口腔内についての話しは以前、このブログでも紹介している。

    【関連記事】勝手にトリビアの泉〜す歯゛らしきムダ知識〜

     ちなみに、ヒトラーは歯医者が大嫌いだったらしい。

     

     ヒトラーの状態は、ヒトラー自身がドイツ国民に呼びかけていた病気も無く、強くて美しいドイツ人という世界観と異なっていたというわけだ。その自分自身が謳った世界観とのギャップにもしかすると苦しんでいたかもしれない。

     ヒトラーはドイツ医学のトップたちに治療を受けていたが、原因がストレスであるためなかなか症状が改善しなかったという。そこで巷で話題になっていたモレルに白羽の矢が立ち、ムタフロールという薬を投与。症状は改善して、1937年にヒトラーの主治医となったという。ただ、ムタフロールは第一次世界大戦の兵士の糞便から採取した薬だったという。まぁ、行ってみれば、モレルは初っ端にヒトラーにうんこ飲ませたともいえるわけね。

     

     モレルは自信満々でバシッと診断して、シュっと薬を出すというスタイルで患者の信頼を買って名医として話題となっていたらしい。ただ、ヒトラーの側近からは「ヤブ医者」と酷評されることとなる。

     医学的な専門知識のない患者は医師から自信満々に「こうですよ!」と言われると「あ、そうなのかな・・・」と信じてしまうよね。それで治らなければラポールは形成されないんだけども、ヒトラーの場合はモレルが最初に出した薬が効いちゃったもんだから、信頼されてしまったのだろう。

     一方で側近たちもモレルの治療を受けるが、そのせいで体調を悪化させ、皆、ただちに治療を中断したという。その中で、ヒトラーだけがどんどんとモレルを信頼し、体調を悪化させていくこととなる。モレルが致死性の劇薬を処方していることがわかったときも、側近がモレルの解雇をヒトラーに進言するが、進言した側近が解雇されるほどまでに、ヒトラーとモレルのラポールは確立されてしまっていたという。

     

     モレルのヤブ医者伝説は続く。

     1941年にドイツ軍がソ連に進攻したときのことである。ひどくストレスを感じ弱っていたヒトラーに、モレルがまず行った施術は、ヒルにこめかみから血を吸わせるというものだった。これは100年前の方法だったという。普通だったら嫌だと思うんだけど、もうヒトラーは疑わない。がんがんヒルに血を吸わせていたらしい。

     それでもよくならないため、モレルは向精神薬バルビツールとブロムベルファジット(番組内の音声を文字におこしているので、微妙に違うかもしれないけど、あしからず)を処方。さらにブドウ糖やビタミン剤を1日に2回は注射していたらしい。また、ヒトラーは「医療っつったら注射でしょ!」みたいに思っていた節があったようで、がんがん注射させていたらしい。ただ、残された記録から、モレルは注射が下手くそだったことがわかっている。番組内ではヒトラーのことを「ピンクッションみたいで可哀想」と言っていた。そこでモレルに当時ついていたあだ名は「国家注射マスター」だったという。

     だが、ヒトラーは向精神薬とすぐエネルギーとなるブドウ糖注射により元気になり、モレルへの信頼感を高めていったのだろう。正直、小手先の医療によって、目先の主訴は解決していたかもしれないけれども、向精神薬の依存性は身体に及ぼす影響などは完全に度外視されていただろう。

     

     米軍の記録ではモレルのことを「豚並みの衛生概念」と書かれていたそうだ。モレルのヤブ医者具合は側近のみならず敵であるアメリカまで知るところであったという。

     ヒトラーの愛人、エヴァ・ブラウンもモレルのことを嫌っていたという。モレルはぺちゃぺちゃ音をたてて食事をして、どんどんと太り、悪臭をまき散らしていたという。エヴァはそれをヒトラーに訴えたが、「モレルは名医だ。ニオイなんて関係ない」と一蹴されてしまったという。愛する人の声も届かないなんて、ラポールって怖い。

     

     ドイツの戦局が思わしくなくなると、ヒトラーの体調はどんどんと悪くなった。そして、モレルはそんなヒトラーにどんどん強い薬を処方したという。

     1943年、戦局の悪化によるストレスで胃を悪くし眠れなくなったヒトラーにモレルが処方したのはユーコダルというモルヒネ。さらには16種類の薬剤を併用して投与。その中には雄牛の精液から抽出した男性ホルモンなど、医学的根拠の乏しいものも数多く含まれていたという。

     それでも元気にならないヒトラーにモレルが注入したのは、ペプビチンという覚せい剤。覚せい剤でハイになったヒトラーはムッソリーニとの会見で2時間ずっとまくしたてていたらしい。

     

     さらに1944年にはヒトラーは冠動脈疾患を患う。ストレスはたまる一方。不安感はつのり、自信を失う。眠れなくなったヒトラーはモレルと朝まで話しをしていたりらしい。

     そんなヒトラーにモレルが処方したのがコラミルとカルジアゾールという強い鎮静剤。これを飲ませるとヒトラーは眠った。この段階で、モレルはヒトラーに覚せい剤と鎮静剤の二種類を同時に投与していたのだ。恐ろしい。

     

     こうしてヒトラーの日常はモレルの手によって壊されていった。しかし、ヒトラーのモレルに対する絶対的な信頼は崩れなかった。しかし、こうしたモレルの処方によって壊れかけていたヒトラーの状態はついに戦局の悪化に直結する。

     1944年6月6回、眠れずに朝まで起きていたヒトラーは鎮静剤によって深い眠りについていた。が、その眠っている間にノルマンディー上陸作戦が実施。ヒトラーが起きて報告を聞いたときには、ドイツ軍は撤退に次ぐ撤退を重ねていた。

     

     そこから崩れ落ちるようにナチス・ドイツは崩壊。死の間際までヒトラーはモレルを手放さなかった。晩年のヒトラーはパーキンソンも発症していたとされる。

     

     最後の最後に「これ以上の治療は必要ない」とヒトラーはモレルを解放。モレルはアメリカ軍につかまったが、その後、太り過ぎで死亡したという。なんじゃそりゃ。

     

     

     

     もし、ヒトラーにちゃんとした医師がついていたら。もう少し、歴史は変わっていたのかもしれない。

     モレルは傾国美女ならぬ傾国医師だったといえるだろう。ヒトラーはヤブ医者と結ばれた確固たるラポールによって、自身の命を縮めてしまった。

     昨今は、医療コミュニケーションなどといって、医師と患者の信頼関係を築くための方策や医師の精神性、プロフェッショナリズムなどが声高に叫ばれているが、その一方で医師として必要な技能などの修得、ようするに腕前とか技術とか、そういった本質的なところが、どこかないがしろにされている感は否めない。医学でくくって語弊があるなら、歯学でくくったっていい。なんなら、補綴までくくる範囲を狭めたっていいけれども、多かれ少なかれ、そういった傾向にはあると思う。

     

     極論だけれども、それが行き過ぎるとモレルのような医師を量産することになってはしまわないだろうか。

     

     

     

     総義歯の教科書(バウチャー)には、義歯の予後をよくする要素のひとつにラポールが明記されている。患者と医師の信頼関係を築くのはとても大切なことだ。大切なこと・・・なんだけど、それに偏重しないように。患者があずかり知らないところで患者を実は苦しめているなんてドクターにならないように、しっかりと勉強していかなければと思った次第である。

     

     それでは、ばいちゃ☆

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