不滅のたくゆう歯科、年明けも激戦地!
道端の砂利までもが我らの戦功を語る。
不滅の城、たくゆう歯科!
たくゆう歯科に来院した患者百人あまりを
わずか四人のスタッフでまわした
今日の話しは、すでに広く語り伝えられている・・・?
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<登場人物>
院長
すっごく元気。父と師匠の雪大の先輩。ベテランドクター。
事務長
すっごく気さく。たくゆう歯科の竜骨。
スッタフ
たくゆう歯科ではスタッフのことを「スッタフ」と言う。
【※証拠】
ごめんなさい、ただスタッフルームにあった誤植をいじってるだけです。
如月サディ
すっごくバイト。今日は帰れないと思った。もうへとへと。
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・・・増える患者!
たくゆう歯科は年が明けて、また激戦地としての日常を取り戻していた。取り戻す・・・というか、一層熾烈になっていた。
そして、減るスタッフ!
たくゆう歯科は患者が増えているが、それと反比例するように、スタッフの数が減っている。年末に一人、優秀なスタッフさんが退職してしまった。それに加えて今日は、色んなシフトやお休みの関係で、とりわけスタッフの少ない日だった。てか、今日は一人だった。
午前はなんとか、出勤しているスタッフ全員で綱渡りのようなギリギリさで、なんとか患者さんをまわしていた。しかし、段々と歩調はもつれていった。しかもパートタイムのスタッフさんたちが帰っていき・・・。こうして午後に入り、夕方にもなると、待合室は治療を待つ患者さんでひしめき合うような状態に陥った。診療室のテーブルの上には治療を待つ患者さんのカルテが次々と積み重ねられていった。私は今日ほどカルテが積み重なった状態をこれまで見たことがなかった。カルテの列は机の端から端まで達してしまった。
私と事務長はカルテの列を見て、息をのんだ。というか、息が止まった。
次々と来る患者。まるで押し寄せる敵艦体のように。(患者さんを敵よばわり?そういうつもりはないんだけど、診療室という名の戦場に立つ身になれば、その機微はわかっていただけるはずである)
それを私たちは水際作戦でひとつひとつ攻略していく。
「いけー!」
どーん!治癒!
急がなければいけないが、目の前の患者さんを一人ひとり、そして、ひとつひとつのことをしっかりと着実に終わらせていく。焦りは禁物。じりじりとすり足で進まなければいけない。カルテの列がひとつ、またひとつ短くなっていく。そこに「よろしくお願いしまーす」と無慈悲なスッタフの声。また列が伸びていく。
持ち前のタフネスで院長はずんずん治療を進めていく。
私も院長に置いて枯れないように、必死になって食らいついて行った。
診療室をあっちへ、こっちへ。これをしている間に、あれをして、と足りないなりに頭を使いながら、動かないなりに手を動かしていた。
たくゆう歯科はぼろぼろだった。
いつもはスタッフさんにやってもらうことも、お構いなしにドクターがやった。いつもの感じでスタッフさんに指示を出していたら、たった一人のスタッフである。きっとパンクしてしまうだろう。回転が停止すること必至。出来ることは、なんでもやる。
予約してある患者さんを回すだけでもいっぱいいっぱいなのに、追い打ちをかけるように急患さんたち。こういう日に限って、予約の患者さんは一人もキャンセルすることなくしっかりと時間通りに来る。そして、急患さんたちの連鎖は止まらない。7時の予約が最終枠のはずなのに、7時半になってもカルテの列は無くならない。それどころか診療時間をすぎているところに、さらなる急患さん。
しかも、道具も材料もどんどん無くなっていった。万事休す・・・!と、そこに!
隣の戦場(と言うと、わかりにくいけれども、たくゆう歯科と同じ系列の隣町にある歯科医院)から、応援のスタッフさんがやってきた。地獄で仏とは、まさにこのこと。私はスッタフと一緒に、応援のスタッフさんを見て「おぉー・・・!」と手の平を広げてしまった。
・・・こうして、なんとか、今日の診療は終わった。
硝煙たちこめる戦場で、私と、院長と、事務長は、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
そして、院長から・・・
「この状況にあって、こういう風に回せたということは、如月先生(の腕)が上がったということなんだろう!」
「遅くまでありがとう!」
といった、御嘉賞を頂いた。
まさか、こうして院長からほめて頂ける日がくるなんて。バイト始めた頃は「はやく回せるようになってくれ」と言われていたのに。この一年(まだ経ってないけど)で、私も少しは成長したということなんだろうか。
そういえば来年度から、たくゆう歯科にまた新人バイトが入ってくるらしい。
「どうも研修医あがりらしいんだけど、大丈夫かな?」と事務長さん。
「え、僕も研修医あがりでここに来ましたよ」と言うと、「あ、そっか!」と事務長さんは笑っていた。
ということは、もう研修医あがりと思わせないくらいには、動けるようにはなって来たということだろうか。顔も知らぬ新人さんには悪いが、この会話、私はなんだか嬉しくなってしまった。
年が明けても・・・たくゆう戦線は激戦地だった。嗚呼、鍛えられる。
それでは、ばいちゃ☆