俺はタクランケ!(歯学院生の日常)

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2016.06.11 Saturday

【映画】マイフェアレディ

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    放送部の休日練を思い出す・・・。

    題名:My Fair Lady
    監督:ジョージ・キューカー
    脚本:アラン・ジョイ・ラーナー
    原作:ジョージ・バーナード・ショウ
    製作:ジャック・L・ワーナー
    音楽:アンドレ・プレヴィン
    撮影:ハリー・ストラドリング
    編集:ウィリアム・ジーグラー
    配給:ワーナーブラザーズ
    公開:1964/12/26(日本では1964/12/1)
    上映時間:170分






     先日、母に誘われて「午前10時の映画祭」へ行った。母と「午前10時の映画祭」に来るのは今回が二度目。前回一緒に見た「素晴らしき哉、人生!」がとてもよかったので、今回も母について来たというわけだ。私は放っておくと基本的に戦争映画しか見ないため、こういうときに心根のまっすぐとした名画を見ておかないと、偏った人間になってしまう(もう十分なっているが)。さて、今回の上映作品は言わずと知れた名作「マイフェアレディ」であった。言わずと知れた・・・と言っているものの、実はちゃんと見たことが無かった。

     マイフェアレディのシナリオなどは検索してもらえば色んなサイトで様々なエピソードをまじえて紹介してあるだろう。けれども、ざっくり私なりに説明してしまえば、オードリーヘップバーン演じる卑しい花売り娘イライザがひょんなことから言語学者のヒギンズ教授に拾われて、身分の格差を乗り越えて二人で社交界デビューを目指すといった感じの物語だ。ここで重要になってくるのは、言語学である。ヒギンズ教授によると、英語の発音の仕方で生まれ故郷や出身大学、その人の身分などがすべてわかってしまうのだという。

     卑しい花売り娘のイライザはその身分相応に汚い英語しか話すことができなかったが、社交界へ出るために高貴な英語を発音できるようにヒギンズ教授と一緒に猛特訓をする。例えば、イライザは四肢を拘束され、一日中ひとつの母音を訓練させられたり。時には子音の訓練をさせられたり。睡眠時間を削り夜を徹して早口言葉を練習させられたり。時には口いっぱいにキャンディーを詰め込まれた状態で言葉を発語するように言われたり。それはそれはもう涙ぐましい努力なのだ。本人はノイローゼ気味になり頭痛を訴える始末。

     私はそんなイライザを見て、高校時代の自分を少しだけ投影してしまった。



     高校時代、私は合唱部をやっている傍らで放送部にも入っていた。私は滑舌が悪かった。日本では別に発音が標準語と違ったり滑舌が悪かったりすることで蔑まれたりすることはない。なんなら身分で言うなれば私は武士の末裔なので士族だ。士農工商の士。ただ、放送部の中では完全に滑舌の悪さは立場の弱さに直結していた。

     入部した頃、私は自分の名前さえ満足に発語できなかった。はっきりと自分の名前を言うことができないということを、初めてこのとき知ったのである。それから高校三年間、イライザ顔負けの猛特訓に励んだわけである。平日はもちろん、休日も朝から晩までみっちり練習なんてことは当たり前のことだった。あるときは顧問の先生と、またあるときはOBやOGの先輩たちと、時に囲まれ時にマンツーマンで声を出すのも嫌になるくらい練習に励んだ。

     例えばある日の練習のことだ。原稿を読み始めたとする。「学校の金庫から古い校歌の楽譜が見つかりました。その・・・」と読み始めるや否や「ストップ」とOBから歯止めがかかる。どうやら滑舌が悪かったようだ。OBは軽く説教をしたうえでゆっくり読むように私に指示した。私は指示通りゆっくり読む。「がっこうのきんこから・・・」「ストップ」。そこから分解作業が始まる。

     ここからの台詞は交互に「私」「OB」である。「がっこう」「が」「が」「が」「が」「が」「が」「g」「g」「gあ」「gあ」「が」「が」「がっ」「がっ」「がっこ」「がっこ」「がっk」「がっk」「がっこう」「がっこう」「がっこうの」「がっこうの」「はい、じゃあ読んでみて」「がっこうのきn」「ストップ!きんこ」「きんこ」「き」「き」「き」「き」「k」「k」「きn」「きn」「きんこ」「きんこ」「きんこ」「きんこ」「のきんこ」「のきんこ」「がっこうのきんこ」「がっこうのきんこ」「がっこうの」「がっこうの」「がっこう」「がっこう」。

     大会前の原稿練習はいつもこんな感じだった。また、平日は放送部に伝わる門外不出の練習帳、そこに収録されている様々な早口言葉のひとつひとつをこんな感じでいつも練習していたのだ。

     このときは本当につらかったけれど、今思うと不真面目で滑舌の悪い男にこれほどまでに徹底的につきあってくれたOBOGの先輩方には本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。



     映画ではある夜突然、イライザがいくら練習しても言えなかった早口言葉を言うことができて喜びのあまり歌をうたい家中を踊りまわるシーンがあったが、私にはイライザの気持ちがよくわかった。私もこれまでどうしても言えなかった早口言葉が突然言えるようになった瞬間というのを何度か味わった。だんだん上手に読むことができるようになると、または明瞭に発語できるようになってくると、これほど面白いことはないかもしれない!と思えてきたものだ。

     段々とうまくなってくると周りの見る目も変わってきた。以前は私が原稿を読めば失笑していた先輩たちも、次第に「うまい」とほめてくれるようになった。毎週のように休日をマンツーマンで練習を見てくれたOBOGの先輩たちからも「うまい」と言われたときは、学校中を駆け回りたいくらい嬉しかったものだ。

     高校最後の大会も、全国には行けなかったものの、全道大会決勝まで駒を進めることができた。自分の名前も満足に言うことのできなかった男が、高校三年間の猛特訓で自己紹介がしっかりできるだけでなく、そこそこ朗読の上手い男になったのである。イライザのように社交界へ進出だとか、ロマンスだとかはなかったけれども、確かに言葉ひとつで見える世界がぐっと広がったというのは実感としてあった。もしかしたら高貴な英語の発音を手に入れたイライザの気持ちはこういう気持ちだったのかもしれない。イライザの姿に自己投影をしながら見た3時間はあっという間だった。



     私はシアターから出ながら、しみじみとこう思った。



     なるほど、高校時代の私はオードリーヘップバーンだったのか。



     それでは、ばいちゃ☆


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